国際情勢と経済戦略

戦略的立場を方針としています。世界一流の専門家たちの分析は・・英文情報で国際情勢・軍事と世界・日本経済の解説記事を紹介します。
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2015年06月

北東アジアでの中国・ロシアの戦略的協力―日米同盟 VS 中露の戦略的協力―

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【◆◆下記の記事は有料メルマガ5月28日号「北東アジアでの中露の戦略的協力と日本の経済」の第1節〜第3節です】


   北東アジアでの中露の戦略的協力と日本の経済


【目次】
【1】 北東アジアでの中露の戦略的協力始まる
【2】 中露のS400と尖閣諸島 +S500
【3】 中露による第1回 北東アジア防衛協議
【4】 IMFが日本のスタグフレーションに言及(別掲載)


   【1】 北東アジアでの中露の戦略的協力始まる


『ロシアが中国に対し、最先端の防空ミサイルシステムS400の供給に踏み切ったことが分かった。ロシアの国営兵器輸出会社「ロスオボロンエクスポルト」のイサイキン社長が、十三日付経済紙コメルサントのインタビューで、ロシアが中国とS400の輸出契約を結んだことを明らかにした。』(4/15-2015 東京新聞)

ロシア 欧米と対立深め 中国に最新ミサイル供与
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2015041502000107.html

このS400のロシアによる中国への譲渡の問題は、昨年でも専門家などの間で注目されています。日経によると「昨年11月、ロシア紙『ベドモスチ』が、中ロが売却で合意したと報道」したそうです(下記記事より)。

ロシア、「虎の子」兵器を中国に 日本にも暗雲 (4/24-2015 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86048560T20C15A4000000/

この日経の記事で編集委員の秋田浩之氏が、S400をめぐるロシアのプーチンの思惑や日本のロシアに対する外交などをいろいろ書いていますが、このS400譲渡の背景として進んでいる事態の核心を外しています。

北東アジアをめぐる情勢は、中ロによって巨大な形で進行しているようです。

現在のところ、中国と米国がにらみ合っている南シナ海情勢に注目が集まっていますが、中国は常に、領土の東西南北の多方向に戦略を着実に推進させています。

戦略国際問題研究所(CSIS)から年3回掲載される東アジアでの2国間関係のシリーズ“Comparative Connections”(「比較による関係」)で、今回5月に公開された中国とロシアの関係の報告を見てみました。

Comparative Connections v.17 n.1 - China-Russia: All Still Quiet in the East (5/15-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/comparative-connections-v17-n1-china-russia

この報告書の一番最後の節に、中国とロシアの軍事的協力についての記述があります。北東アジアに関係した箇所を抜粋して訳します。



4月には、実用的なレベルでの防衛協議が<加速>していた。

4月16-17日、中国の常万全国防相は第4回モスクワ国際安全保障会議に出席し、セルゲイ・ショイグ国防相(ロシア)と会談した。(※ 訳注:この会談の3日前の13日、経済紙「コメルサント」が、ロシアが中国とS400の輸出契約を結んだことを報じている)

4月23日には、中国とロシアは北東アジア防衛における第1回の協議を上海で開いた。
劉建超外務次官補とイーゴリ・モルグロフ外務次官はその会議の共同議長を務めた。外交問題、国防、安全保障の各部門からの当局者たちがその会議に出席した。

北東アジア防衛のための中国とロシアの「協議」が開かれたのは、日本の安倍首相の1週間にわたる米国への訪問のちょうど3日前であった。

(PDF6-7ページ)


この記事の執筆者ユー・ビン氏はここで、北東アジアでの中国とロシアの軍事協力として「S400」譲渡の問題を取り上げています。


   【2】 中露のS400と尖閣諸島 +S500


ユー・ビン氏によれば、中国がS400を受け取るのは2017年と見られており、少なくとも6大隊のS400を約30億ドルで購入し、1大隊は8セットのミサイルシステムから構成されると見られています。

そしてこれが運用されれば、S400は尖閣諸島や台湾での標的に対して効果的に戦うだろうと言っています。

また、「S400」の譲渡について、米国サイトの『デェフェンス・ニュース』や『ディプロマット』の両誌は、モスクワの戦略技術分析センターの中国の防衛問題の専門家バシリー・カシン氏の見解を伝えています。

カシン氏によれば、「S400により中国は、東シナ海の日本によって管理された尖閣諸島の近くにまで防空識別圏(での影響力)を広げることもできるが、その防空識別圏を支配することはできないだろう」と言っています。

… the article added that that S-400 would “also allow China to extend, but not dominate, the air defense space closer to the disputed Japanese-controlled Senkaku Islands in the East China Sea.”


Alarm Over China’s S-400 Acquisition Is Premature (4/22-2015 ディプロマット)
http://thediplomat.com/2015/04/alarm-over-chinas-s-400-acquisition-is-premature/

S400のロシアから中国への譲渡では、専門家の間ではとくに尖閣諸島、台湾、インドの防衛への影響が論じられています。
S400についてのステルス性への対処能力については余り調べてみなかったのですが、『ディプロマット』の元編集長のザカリー・ケック氏は2014年の4月に次のように言っています。

『日本は中国のS400と戦わねばならないだろう。S400は尖閣諸島をカバーする。日本が軍事力を誇示する能力へ向けられたS400の持つ影響力は、F-35戦闘機の調達によって若干軽減されるだろう。その統合打撃戦闘機は、高度な防空システムの環境の中で作戦行動するのに十分なステルス性をもってつくられている。』

Putin Approves Sale of S-400 to China (2014/04/11 ディプロマット)
http://thediplomat.com/2014/04/putin-approves-sale-of-s-400-to-china/

ここまでの話はS400のことについてですが、モスクワの戦略技術分析センターのカシン氏は前出の4月18日の「デェフェンス・ニュース」のなかで、さらに能力を強化した最新のS500について触れています。

『ロシアはいま、次世代のS500の開発に取り組んでいる。S500は2017年に連続生産に入る。おおよそそれと同じ時期に中国は最初のS400を受け取る。』

… and Russia is now working on the next-generation S-500. The S-500 is expected to enter serial production in 2017; roughly, the same time China receives its first S-400 delivery, Kashin said.


   【3】 中露による第1回 北東アジア防衛協議


戦略国際問題研究所(CSIS)のHP記事でユー・ビン氏が注目した中露による北東アジア防衛についての第1回目の協議(上海)ですが、中国外務省のHPをみると、その協議についての発表の記事がありました。

China and Russia Hold First Consultation on Northeast Asia Security (4/23-2015 中国外務省)
http://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/wjbxw/t1258822.shtml

詳細や具体的なことは書かれていませんが、最後に、「中露両国は・・・北東アジアでの安全保障(防衛)を合同で守るために、二国間での対等で包括的な戦略的協力の精神において、調整と協力をさらに強化する意志を表明した」とあります。

Both sides expressed their willingness to further strengthen dialogue and communication and enhance coordination and cooperation in the spirit of the comprehensive strategic partnership of coordination between the two countries, so as to jointly safeguard peace, stability and security in Northeast Asia.

いま、集団的自衛権を推し進める政策によって日米同盟が強化されていくとマスコミは伝えています。

(※ 黒田日銀総裁は目下議論が進められているバーゼル銀行監督委員会の、国債をリスク資産とみなすようにするというルール変更におびえていますが、何をいまさらでしょう。

長期金利が急上昇すれば、日本は戦さのまえに「すってんてん」です。「すってんてん」の日本が日米同盟で集団的自衛権の行使などできるでしょうか。そうなれば米国にしたって日米同盟など迷惑な話でしょう。)

「銀行、国債保有なら資本増強を」 バーゼル委、新たな規制案 (3/10-2015 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC09H0I_Z00C15A3EE8000/

安部首相の訪米の3日前に、北東アジアでの安全保障(防衛)を合同で守るために、中国とロシアの関係閣僚が一堂に集まって開いた会議の目的は、(尖閣諸島と千島列島を想定して)日米同盟の強化に対抗して、この北東アジア地域で中国とロシアが戦略的協力関係を強化するのが狙いです。


■ 第3節での関連記事

北海道を狙うプーチンと中ロの秘密同盟 (2014/07/28 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38890251.html?type=folderlist

◆◆第4節「IMFが日本のスタグフレーションに言及」につづく
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39461365.html


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IMFが日本のスタグフレーションに言及

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【◆◆下記の記事は有料メルマガ5月28日号「北東アジアでの中露の戦略的協力と日本の経済」の第4節です】


  【4】 IMFが日本のスタグフレーションに言及


国際通貨基金(IMF)は5月22日に対日経済審査の報告書を発表しました。
この中でIMFは今後日本が、スタグフレーションと国債の金利上昇に陥る危険性を指摘しています。

いまは大手を中心に企業業績も好調なところが多く、人手不足で賃金上昇の話もだいぶ聞かれるようになっていますが、IMFはこの時期、この報告書で、スタグフレーション(不況と物価の持続的な上昇の併存)という語句を二度使っています。

このIMFのスタグフレーションの指摘は、米金融専門チャンネルのCNBCサイトやウォール・ストリート・ジャーナルでも取り上げられました。

IMF urges Japan to take 'bold action' on reforms, debt mess (5/22-2015 CNBC)
http://www.cnbc.com/id/102702469

IMF Says Bank of Japan Should Stand Ready for More Easing (5/22-2015 ウォール・ストリート・ジャーナル)
http://www.wsj.com/articles/imf-says-bank-of-japan-should-stand-ready-for-more-easing-1432297116

IMFのこの報告書は、IMFのHPで日本語訳が掲載されているので以下に記します。

2015年対日4条協議終了にあたってのIMF代表団声明 (5/22-2015 IMF)
http://www.imf.org/external/japanese/np/ms/2015/052215j.pdf

報告書は長文になりますが、「スタグフレーション」の語句が使われている前後の部分を抜粋して以下に記します。原文を参照したい方はこちらです。

JAPAN: Concluding Statement of the 2015 Article IV Mission (5/22-2015 IMF)
http://www.imf.org/external/np/ms/2015/052215.htm



(引用開始)

【抜粋】 2015年対日4条協議終了にあたってのIMF代表団声明

2015年5月22日

経済見通しにかかるリスクは下振れ方向に傾いている。中国と米国の成長が予想を下回る場合、逃避先通貨としての増価などによって、内需の好転を待たずして輸出主導の回復が腰折れする可能性がある。しかし、もっとも重要なリスクは、弱い内需と不十分な政策に起因したものである。特に、第二と第三の矢が不十分な場合、スタグネーションあるいはスタグフレーションに陥る可能性もある。どちらの場合も、長期的な財政の 持続可能性をめぐる疑念が国債のリスク・プレミアムの上昇を引き起こし、金融システムと実体経済に負の影響を及ぼす更なる財政調整を急激に行わなければならなくなる可能性もある。その場合、銀行システムの収益性が一層悪化するとともに、日本国債市場や為替市場において過度の変動が生じる可能性がある。

(中略)

下振れリスクに備える

脆弱性や金融リスクが顕在化した場合には、政策調整が必要となろう。財政政策には 動員の余地がほぼ残っておらず、また金融政策には既に大きな負担がかかっているため、 顕在化したリスクの性質に合わせて慎重に政策を調整する必要があろう。国債の信用リスクの上昇を伴わずに成長が鈍化しインフレ率が下落する場合には、財政健全化を経済状況と調和的なものとし、追加金融緩和を行い、さらには、追加的な目に見える構造改革を行うことで対処することができよう。スタグフレーションが生じれば更なる構造改革が必要となる一方、国債の信用リスクの上昇により追加的な財政健全化の必要性が生じるかもしれない。これらすべてのケースにおいて、政策対応が信頼のおける中期的枠組みと明確なコミュニケーションに立脚していることが重要となろう。

(中略)

より大胆な構造改革と信頼のおける財政健全化がなければ、内需は低迷を続けるとみられ、追加的な金融緩和は円安に過度に依存する状態につながるだろう。

(引用終了)



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ロシアの中東におけるオフショア戦略

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】


   【2】 ロシアの中東におけるオフショア戦略


中東におけるロシア、とくにロシアとイランの関係を考える時に重要なことを、戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートが指摘しています。

The Great Powers in the New Middle East (3/06-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/great-powers-new-middle-east

このレポートはジョン・マクラフリン氏が主筆し、7名の寄稿者から作成されています。ジョン・マクラフリン氏は元CIAの副長官(2000-2004)です。

マクラフリン氏は、「ロシア外交のなかで、イランとの関係ほど繊細で(精巧で)、難しく、複雑なものはない」と言います。そしてその例として、イランの核開発を取り上げて以下のように説明しています。

=========================================
1979年のイラン革命以降、ロシアはその国土の南部周辺―とくにアゼルバイジャン、タジキスタン、トルクメニスタンのようなイスラム系の中央アジア諸国―へのイランの影響を警戒してきた。

しかし、イランが核開発計画のなかでブーシェルでの原子炉建設のようないくつかの側面を実現するのを、ロシアは助けた。同時にロシアは、イランの核兵器の獲得を是認することをその一歩手前でやめておき(是認することまではせず)、イランへの制裁を支持する西側に加わった。

しかし、ロシアは米国が望むよりもより緩やかな(包括)制裁案を、常にいつでも(西側に)要求した。(PDF5ページ)

=========================================

このマクラフリン氏が挙げた例がよくロシアの中東政策を表していると思うのですが、ロシアの中東戦略というのは「オフショア・バランシング戦略」にとても近いものだと思うのです。

以下の抜粋は、海上自衛隊幹部学校の戦略研究室長の平山茂敏氏のオフショア・バランシング戦略についての解説記事ですが、文中の米国をロシアと置き換えてみると、イランを「バック・キャッチャー」にしたオフショア・バランシング戦略がロシアの行ってきた中東戦略と重なるのです。


オフショア・バランシング戦略において、米国が米州以外の他の地域で覇権的優位を追求することは、他の国々が連携して米国に対抗することを惹起するため否定される。

そして、米国の戦略的利益はユーラシアにおける覇権国の台頭をヘッジすることにあり、米国は大陸における闘争に直接関与することは極力回避し、これを同じ地域の他の大国によって抑止させるべきと主張する。

このため、優越(Primacy)戦略と異なり、オフショア・バランシング戦略は、米国が内部(EU、ドイツ、日本)や外部(中国、ロシア)に新たな大国が台頭することを許容する。許容しないのは、世界や地域でこれらの大国が覇権国家に成長することである。

2つのオフショア戦略 (2013/12/19 海上自衛隊幹部学校)
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-049.html




■■ 中東とロシア:第2節関連記事

「イランと米国との共同統治」―米国の新しい中東包括戦略― (3/12-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39335801.html

プーチンの地中海・中東戦略―中東から欧州へのシーレーン阻止を狙う―(2/12-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39288711.html

プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか―盟友中国の存在― (5/14-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39451557.html

ロシアとイスラエルの関係―ユダヤ系ロシア人・「S300」― (4/23-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39428684.html


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プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか―盟友中国の存在―

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   【1】 プーチンは中東で戦争を仕掛けることができるか

        ―盟友中国の存在―      


原油価格の大幅な下落状態が続き、低迷を続けるロシア経済を眺める時に、もし中東で大きな戦争があればロシアは経済を復活できる、プーチンは中東での戦争を待つだけでなく、その仕掛けをつくることを考えているはずだ―国際情勢に関心を持つ比較的多くの人がこのように考えているかもしれません。

しかしこの考え方―つまりプーチンは中東での戦争を仕掛ける―、それは果たして可能でしょうか。

オスロ国際平和研究所の教授でブルッキングス研究所の非常駐シニア・フェローのパベル・バエフ氏は、この問題について回答しています。バエフ氏はロシアの軍事や安全保障政策、ロシアのエネルギー問題の専門家です。

Russia needs a Middle East crisis: Will delivering S-300s to Iran help? (4/22-2015 ブルッキングス研究所)
http://www.brookings.edu/blogs/order-from-chaos/posts/2015/04/22-russia-s300s-to-iran-baev?rssid=Order+from+Chaos

この記事の題名は「ロシアは中東危機を必要とする」です。
その副題は「イランへのS300の譲渡(荷渡し)は役に立つか」とあるように、記事の後半はロシアによる「S300のイランへの売却の背後には何があるのか」と問いを立てています。

「イランが欧米との核協議で画期的な枠組み合意に至ったことを受け」、プーチン大統領は4月13日、イランに対する高性能地対空ミサイルシステム「S300」の禁輸措置を解除したのです(※ 有料メルマガ4月23日号で解説しました)。

ロシア、イランへのS300ミサイル禁輸を解除 (4/14-2015 AFP通信)
http://www.afpbb.com/articles/-/3045299

バエフ氏によれば、ロシアは、中東から生じる自国にとっての非常に重大かつ緊急の問題―安い石油価格―に対処するために、ロシアの中東での中心的な役割を望んでいると言います。

6月末に向けてイランに対する核交渉で制裁が解除されれば、イランの原油と天然ガスは徐々に市場へ流れ、「原油価格を現在の最悪の悪夢の停滞状態よりもさらに押し下げる恐れがある」とバエフ氏は言い、次のように論を進めます。

「ロシアがこの落とし穴から脱出するただ一つのチャンスは、ペルシャ湾からの石油の流れを縮小させることのできる破壊的な(混乱させる)危機である」

ところが、バエフ氏は「S300の禁輸解除の決定は、プーチンに多くの満足を与えそうもない」と言って、ロシアの同盟国に近い中国の存在を挙げます。

S300のイランへの譲渡に理解を示した中国も、さらにもう一段階、中東で軍事的緊張を高めるような行動をロシアがおこした場合は、中国の怒りを買う危険(risk)があることをプーチンは理解していると述べています。

そして「どのようなオイルショックも防ぐと固く決意している大国(中国)がいるという事をプーチンは非常によく知っており、ロシアは中国の国益を害するわけにはいかない」と分析しています。

(※注: S300の禁輸解除はイランがその支払いをめぐる訴訟でロシアを脅し、核交渉の最終合意を待たずに解除させたという見方があります。S300の禁輸解除と引き換えに、イランはその訴訟を取り下げたそうです;下記記事より)

Moscow Is Ready to Supply Iran With Powerful S-300 Missiles (4/16-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43800&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=702970272bb7a60ed9f065afda0d8ddf#.VTB0PyG8PRY

また「ロシアは、中東で大きな危機と混乱を引き起こす、ぶち壊し役を演ずることが必要であり、それにより利益があると考えているが、それができない」。つまり、プーチンが中東で石油ショックを仕掛けられないのは中国を重視しているからだと言っているのです。

混乱し不安定な中東情勢は刻々と変化していきます。

ロシアの軍事や安全保障問題を専門とするバエフ氏によれば、ロシアには中東において大きな失敗を犯すリスクがあると言います。その理由の一つは、ロシアの野心の遂行に使用可能である資力(resources)は、その野心と比べはるかに劣っていること。そしてもう一つは、プーチンを取り巻く部下の「狭い集団」(人材の幅が狭い)には、中東情勢に対処する専門的能力がないことをその理由として挙げています。

Moscow risks committing a major blunder, both because its ambitions are far higher than the resources available for their execution, and because the expertise on Middle East in the narrow circle of Putin’s courtiers is non-existent.

ロシアの中東地域での戦略性については、様々なロシアや中東を専門とする専門家たちが分析や論評をしていますが、ここではパベル・バエフ氏の記事を取り上げてみました。




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サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ5月14日号の一部です】


   【3】 サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか


サウジアラビアへのパキスタンの核兵器での協力は、2014年11月のメルマガや今年3月12日号のメルマガでもお伝えしてきました。この両国の核兵器での協力は一般によく知られているのですが、4月21日にサウジがイエメンのシーア派武装組織フーシ派に対する空爆終了を宣言し、その直後もそれを続行させたという頃から、事態はどうもサウジにとって非常に不利な方向へと進み始めているようです。

1月下旬にアブドラ前国王が亡くなり、パキスタンからはナワズ・シャリフ首相や軍の首脳がリヤドを訪れ熱心な会談が行われていたようです。
前国王が亡くなった11日後の2月3日にはパキスタン軍統合参謀本部のラシッド・マフムード議長がサルマン国王と会談、3月4日にはナワズ・シャリフ首相が3日間の日程でリヤドを訪れ、サルマン国王と会談。

Nuclear Nuances of Saudi-Pakistan Meeting (2/03-2015 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/nuclear-nuances-of-saudi-pakistan-meeting

ブルッキング研究所の中東専門家であり、元CIAのアナリストであったブルース・リーデル氏は、この期間にサルマン国王がシャリフ首相から核兵器による協力の確約をとるための強い説得があったと推測していました。

As Bibi addresses Congress, the Saudis play a more subtle game on Iran (3/02-2015 アル・モニター)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2015/03/02-riedel-bibi-addresses-congress-saudi-king-salman-summoned-pakistan-nawaz-sharif-on-iran

サウジはイエメンでのパキスタンの援軍に非常に期待していたのですが、パキスタンは国内でのテロ組織との戦闘で手一杯で、サウジの申し出を断ってきました。これは3月の話です。

Pakistan declines to join Saudi Arabia's anti-Iran alliance (3/15-2015 アル-モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/03/saudi-pakistan-yemen-taliban-iran-sunni-salman.html

4月23日にナワズ・シャリフ首相とラヒール・シャリフ陸軍参謀長がサウジへ再度訪れ、パキスタンがイエメンでの戦争に参加できない理由を説明しに来ました。この時のサウジによるパキスタンの部隊への要請は激しいものであったそうです。

この4月23日のパキスタンの首脳のリヤド訪問は、サウジがフーシ派に対する空爆終了を宣言し、そのあとそれを続行させた翌日のことです。



      ◆     ◆


実は、パキスタンにはサウジに部隊を派遣できない大きな理由がありました。パキスタンの大部隊をサウジのためではなく、中国のために使う必要があったのです。



中国、パキスタンのインフラ開発に5.5兆円 「経済回廊」整備へ (4/21-2015 AFP通信)
http://www.afpbb.com/articles/-/3045953

中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は20日、パキスタンを公式訪問し、ナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)首相と会談。中国が推進する「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想の実現に向けて、総額460億ドル(約5兆5000億円)をパキスタンに投資する計画を発表した。

 両国は、中国の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)のカシュガル(Kashgar)とパキスタンのアラビア海(Arabian Sea)沿岸にあるグワダル(Gwadar)港を結ぶ「中国・パキスタン経済回廊(China-Pakistan Economic Corridor、CPEC)」で道路や鉄道、パイプラインなどのインフラ整備を進め、中東からの原油輸送ルートを大幅に短縮することを目指している。CPECを通じてパキスタンを地域経済のハブ(中心拠点)とし、新疆ウイグル自治区の発展につなげたい考えだ。(以下省略)



シャリフ首相らは、このパキスタンの巨大なインフラ整備に対し、イスラム過激派集団から中国人労働者を守るために、新しい特別師団をつくることを習近平国家主席に約束したのです。それゆえサウジに派遣する部隊の余裕はないわけです(※ 前出“The Pakistani Pivot from Saudi Arabia to China” ブルース・リーデル, 4/23 の記事より)。

特別警備師団は総数1万人からなる部隊で、その半数は精鋭のコマンド部隊から配置されるだろうとリーデル氏は言っています。

そして4月23日のリーデル氏のブルッキングス研究所の記事では、次のように結んでいます。

『シャリフ首相が方向転換をしたのは明らかだ。
そして、米国のように、パキスタンは中東から離れて東アジアへ移動したい』

また、パキスタンにはイランから自国へ天然ガスを送るパイプラインの建設計画があります。

中国、イラン・パキスタン間のガスパイプライン建設へ (4/09-2015 ウォールストリート・ジャーナル日本語版)
http://jp.wsj.com/articles/SB11340384235203263823104580569641940772972

こうなってくると、パキスタンはイランを想定した核兵器をサウジに供与することは難しくなります。おそらく中国の戦略家たちがパキスタンにストップをかけるでしょう。
なぜなら第2節のロシアの中東戦略で述べましたが、中東地域での中国、米国、ロシアのオフショア・バランシング戦略では、イランを「バック・キャッチャー」にしていると考えるからです。

パキスタンがサウジに対して核兵器の供与を方向転換すれば、中東ではスンニ派がシーア派に屈することになり、イランが断然優位になることになりますが、ひとつ思うのは、ロシアのプーチンがサウジに対してどのような動きをするかということです。


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ロシアとイスラエルの関係―ユダヤ系ロシア人・「S300」―

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イスラエルのリーベルマン外相(左)とロシアのラブロフ外相が会談を終え、合同記者会見を行うところ(2015年1月26日 モスクワで)
(“Israel offers to mediate talks between Ukraine, Russia” ALMONITOR, February 1, 2015)


【◆◆以下の記事は有料メルマガ4月23日号の一部です】


    【2】 ロシアとイスラエルの関係

       ―「S-300」・ユダヤ系ロシア人―


4月13日、プーチン大統領はイランへの高性能地対空ミサイル・システム「S-300」の禁輸措置を解除しました。

ジェームズタウン財団のパベル・フェルゲンハウアー氏(ロシアの軍事・外交が専門)によると、この禁輸措置の解除に署名する前の週に、プーチンはイスラエルのネタニヤフ首相に電話をかけ、「S-300」をイランへ供給する理由を長時間にわたり詳しく説明したそうです。これはクレムリンの発表をインターファックス(通信社)が伝えました。

Moscow Is Ready to Supply Iran With Powerful S-300 Missiles (4/16-2015 ジェームズタウン財団)
http://www.jamestown.org/regions/russia/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=43800&tx_ttnews%5BbackPid%5D=653&cHash=702970272bb7a60ed9f065afda0d8ddf#.VTB0PyG8PRY

イランはイスラエルの宿敵です。ネタニヤフ首相にプーチンが実際にどう説明したかわかりませんが、「S-300」は防御用だけでなく攻撃兵器としても使え、核弾頭ミサイルも発射可能です(「S-300」の性能などについて上記記事に解説があります)。

「目には目を、歯には歯を」というわけでしょうか、イスラエルはウクライナへ殺傷兵器を与える計画を発表しました。

Vladimir Putin Raises Concerns Over Israel's Plans To Give Weapons To Ukraine (4/18-2015 International Business Times)
http://www.ibtimes.com/vladimir-putin-raises-concerns-over-israels-plans-give-weapons-ukraine-1887635

前出記事のフェルゲンハウアー氏は、ここで「ロシアの大統領はイスラエルを重要であると考えているようだ」と言い、ウクライナ問題でイスラエルがロシアにどのような制裁も課さなかったこと、また武器の供与をウクライナに行わなかったことを挙げています。

この点については、ロシアの戦略問題研究所(Institute for Strategic Studies)のマキシム A. スチコフ氏が興味深い指摘をしています。

Israel offers to mediate talks between Ukraine, Russia (2/01-2015 アル・モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2015/02/russia-reaction-israel-mediation-ukraine-proposal.html

今年1月26日、イスラエルのリーベルマン外相はモスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談していますが、その時にリーベルマン外相は、必要があればイスラエルはロシアとウクライナの調停をする準備ができていると申し入れています(上記記事より)。

スチコフ氏によれば、ロシアとウクライナの両国では、ユダヤ人の移民の比率がほかの国々よりも多く、政財界では多くのユダヤ系が上層部の職にあり、政財界での大きな影響力を持ってきたということです。

近年、ロシアが中東で協力関係の「網」をイスラエルや、「以前は敵意を抱いたサウジのような国々へも」広げようとしてきていることは、戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートでも指摘されています。

The Great Powers in the New Middle East (3/06-2015 戦略国際問題研究所 PDF)
http://csis.org/publication/great-powers-new-middle-east


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張 良

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