国際情勢と経済戦略

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2015年01月

サウジは国内秩序動乱の入り口にいる―シェール革命の影響と米国の中東政策―

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【◆◆以下の記事は有料メルマガ12月25日号で、それに修正加筆したものです】 http://www.mag2.com/m/0001627731.html


    サウジは国内秩序動乱の入り口にいる

      ―シェール革命の影響とペルシャ湾岸情勢―


【目次】
【1】 中東混乱とサウジの石油の安売り
    ―シェール革命の影響と米国の中東政策― 
【2】 サウジは国内秩序動乱の入り口にいる



  【1】 中東混乱とサウジの石油の安売り
      ―シェール革命の影響と米国の中東政策―


原油価格が下落を続けています。原油下落を進行させるサウジを中心とした湾岸産油国の石油政策は、米国のシェール革命によって引き起こされました。サウジはシェールに対抗し、米国シェール産業をとことん潰すつもりでしょう。

このとき見逃してならないのは、米国のシェール革命は湾岸産油国に、中東での米国の軍事的役割について、懐疑的感情(不確実性)を与えているということです。

この指摘は戦略国際問題研究所(CSIS)の11月11日公開の論文『新しいエネルギー革命と湾岸』の中にあり(本文でPDF8ページほど)、米国のシェール革命が湾岸産油国に与えている、軍事的な影響と経済・財政的な影響の2つの側面から詳細な考察をしています。

The New Energy Revolution and the Gulf (『新しいエネルギー革命と湾岸』 11/11-2014 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/files/publication/121114_Barnett_GulfEnergy_Web.pdf

執筆者は戦略国際問題研究所(CSIS)で中東問題を研究しているキャロリン・バーネット氏で、彼女はとくに湾岸諸国と北アフリカが専門です。

この論文は中ほど以降から2部構成になっており、米国のシェール革命が湾岸産油国で引き起こしている動揺と不確実性を、軍事的な影響と経済・財政的な影響の2つに分類して論じているので、その2つの側面を見ていきたいと思います。

※※ この論文を紹介する中で「湾岸諸国」と私が省略して訳すのは、湾岸協力会議(GCC)加盟国のことで、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの6カ国を指します。イランとイラクは除きます。私が「湾岸諸国」と訳す時は、原文では“GCC”(湾岸協力会議加盟国)となっています。

以下、この論文の『不確実なスーパーパワーとしての米国』(“The United States as an Uncertain Superpower”)の章の要約と抄訳を記します。


(要約と抄訳開始)

米国のシェール革命が注目されるようになったのは、2010年12月からチュニジア(ジャスミン革命)やエジプト(ムバラク長期政権崩壊)で始まった反政府抗議暴動に見られる「アラブの春」の頃である。

また、その後のリビアなどアラブ各地での暴動、シリアやイラクでの永続的な内戦が起こり、湾岸産油国の指導者たちがそれらの自国への波及を恐れる脅威が高まっているさなかに、米国のシェール革命の影響が中東へ押し寄せてきた。

湾岸産油国の指導者たちは、増産されていく米国のシェール生産を「米国のエネルギーの独立」の兆候と見た。
彼らは「米国のエネルギーの独立」の進行を見ることで、米国が中東で行う(湾岸産油国へ向ける)政策の『意図』に懐疑的になった。これはまさに、湾岸産油国が「アラブの春」以降の各国内での暴動に、脅威と脆弱さを感じていた時期であった。

2011年に、エジプト革命から波及したバーレーンでのデモに対してサウジは軍隊を介入させ、その後バーレーン、オマーン、イエメンの各政府に総額80億ドル以上の支援をした。

シェール革命による「米国のエネルギーの独立」により、来たるべき「米国が湾岸諸国を捨てる」という時期が、もう数年前から始まっている。

The GCC’s new activism is a reaction to regional upheavals, but it also reflects the impact of a narrative that emerged over the past few years of a coming U.S. abandonment of the Gulf. (PDF5ページ)

混乱の中にある中東において、湾岸諸国は、現在の米国からの助言をただ単に役に立たないばかりでなく、実際には危険であると感じている。中東地域でいくつかの同時に起きている米国の行動とその動向は、湾岸諸国に対する米国の安全保障の信頼性を揺るがしている。

筆頭にあげられるのはイランへの米国の態度、イラン核問題の解決への米国の『意欲』だ。中東地域の世論指導者たちは、オバマ政権のこの地域での安全保障に対する熱意の欠如を、厳しく批判している。

長期的な恐れとして、米国とイランの関係正常化は、湾岸諸国の安全保障への米国の関与を弱める。

連合を組む湾岸協力会議(GCC)の加盟国は、より広い中東全域での「イランとの冷戦」という状況の中で、アサドを倒し、理想的にはイラクの新政府へのイランの影響力を押し返すという目標を熱望的に維持している。

イラン核問題の交渉が現在も続いているが、この核問題が湾岸諸国にとってどんなに進展しようとも、湾岸諸国の指導者たちは、この地域でのイランの行動を抑制する、もっと包括的(総合的)なアプローチをより望んでいる(※ 注-1)。

(※注-1:訳者注:例えばオバマ政権はイランとの核交渉は継続していますが、スンニ派の湾岸諸国には、中東地域でのテロ戦争で、シーア派勢力を弱体化させようという米国の意思が非常に希薄に感じられ、この地域での脅威が高まっています。このようなオバマ政権の中東政策は、サウジなどスンニ派諸国にとってとても包括的なアプローチとは言えません。)

(要約と抄訳終了)


このような中東情勢、とくに湾岸情勢を踏まえて、現在、国際金融市場で注目されている原油価格の下落の現象を見てみます。

そこでは、米国とサウジがロシアに対抗して原油下落を共同で仕掛けているという見方がありますが、これは現在、中東情勢のなかに置かれているサウジとイランと米国の関係を考えれば、おかしな見方だと言えます。

バーネット氏の論文で見てきたように、サウジをはじめ湾岸産油国は米国のオバマ政権の中東政策、とくに対イラン政策に非常な不満を持ち、湾岸産油国に関わる米国の政策の「意図」に懐疑的になっています。また、米国の中東政策が湾岸産油国にとって危険な場合さえあると見ています。

そのように、サウジなど湾岸産油国が米国に対して、非常な不満、懐疑心、時に危険といった感情を持っているということ、また、巨大な損失を伴い、長期化すれば財政赤字に陥るリスクを負っているということを考慮せずに、原油下落はサウジと米国が協力し組んでやっているのだというコラムをいくつも見ました。それはニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズでも見られました。

私は、このあたりがマスコミ情報の限界かとも思いますが、荒唐無稽とまでは言わないまでも、それはただの憶測、おもしろく聞こえる当て推量に過ぎないと思います。

サウジの石油政策と行動は、米国との関係のなかで軍事と経済をワンセットで考えなければだめで、サウジと米国の軍事と経済の関係を切り離してこの問題を考えるのは、事象を2つに分解してその片方だけを振り回しているようなものです。それは現実から遊離しています。

ブルッキングス研究所のグレゴリー・ゴーズ氏が、現在、中東ではサウジとイランによる「新中東冷戦」(“The New Middle East Cold War”)が行われていると言っています。

サウジは、中東地域で米国による安全保障に依存しているため、米国に守ってもらわなければ国家の存亡に関わるため、<これから先も米国の消費者に石油をこれまでと同じように買ってもらい、米国の消費者をつなぎ止めておく必要がある>のです。
そして、そのために米国のシェール産業を潰そうという側面があるのです。

米国の対ロシア戦略のためや、米国のためにやっているのではなく、あくまでも「新中東冷戦」下での、サウジ自身の国家生き残りのために、必死な思いで石油の安売りをしているのです。

原油下落が続けばイラン核交渉では、サウジにとってイランを抑制できるのではという観測がありますが、イランは1970年代はじめのパーレビ国王の核兵器構想発表以来、40年以上も核兵器製造への確固たる意志を貫いてきています。イスラエルはもちろん、サウジも、原油下落程度でイランが核兵器製造を後退・譲歩するなどとは思っていないでしょう。

もし、本当にサウジと米国が共同して原油下落を仕組んだとすれば、その見返りとしてもうすでに、中東地域での米国の行動と政策がこれまでと大きく転換し、サウジなどスンニ派に大きく肩入れし、イランに対して米国がより強硬になっているはずですが、そのような現象は全く見られません。

また、原油下落はロシアのプーチンを思いきり痛めつけていますが、プーチンはサウジの市場シェア確保の石油政策の「とばっちり」、巻き添えを食らっているだけであると私は見ています。


    【2】 サウジは国内秩序動乱の入り口にいる



(原油の)価格低迷が続けば、サウジは財政赤字に陥り、政治的安定に新たな問題が持ち上がるかもしれない。だが、サウジは巨額の外貨準備を抱えるため、歳入が減っても耐えられると多くのアナリストはみている。

原油価格下落を静観するサウジの深遠な思惑 (10/17-2014 フィナンシャル・タイムズ邦訳版)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM17H0N_X11C14A0000000/



いったい、サウジは原油価格低迷にどの程度まで耐えられるのでしょうか。

サウジなど湾岸諸国に詳しいワシントン中東政策研究所のサイモン・ヘンダーソン氏は、石油収入が2013年の半分に落ち込んでも、まだ、サウジは気前のいい助成金や公務員への給料を、何年も支払っていく十分な資金があるといいます(※ 下記記事より)。湾岸産油国は労働人口に占める公務員の比率が高いといわれます。

Falling Oil Prices and Saudi Decisionmaking (10/17-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/falling-oil-prices-and-saudi-decisionmaking

ヘンダーソン氏は、この気前のいい国民へのお金の支給は、サウジの王国の暗黙の社会契約として絶対必要なものとしてみなされているといいます。すなわちその社会契約とは、サウド王家の家父長的な気前の良さのために(諸々に対するお金の支給)、人々は民主主義の自由がないのを我慢しているという暗黙の契約です。

チャートを見ると2013年の原油価格(WTI)が年平均でざっと1バレル100ドルで、現在12月半ば以降、53ドル〜56ドルのレンジを横ばいです。

戦略国際問題研究所でエネルギー問題が専門のサラ・ラディスロー氏は、「多くのアナリストが、シェールオイルなどの増産を食い止めるには、1バレル50ドルレベルで数か月かかるだろうと考えているようだ」と言っています。

Most analysts seem to believe that it would take a $50 price level over a period of several months to stop the growth in tight oil production.

An Oil Market Experiment (12/16-2014 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/publication/oil-market-experiment

しかしながら、サウジと米シェール業界との戦いで、どちらが敗北するのかは私にはわかりません。
サウジは巨額の外貨準備が強みですが、サウジと米シェール業界の戦いは長期化するとその外貨準備とは関係のないところで、サウジを脅かす非常に脅威的な出来事が起こってきます。

それは、原油生産量も外貨準備もサウジとは格段に少ない湾岸諸国で、「アラブの春」のような政変・暴動・反乱が起き、それがサウジに直接的に波及する場合です。

つまり、サウジの東側に隣接するアラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの地域の財政と経済が、1バレル50ドルレベルかそれ以下の価格低迷で悪化した場合です。

前出のバーネット氏の論文によれば、これらの湾岸諸国は、いま、公共支出の増加、とりわけ社会福祉と水道設備、そしてエネルギー補助金の増加に直面しているそうです。これらの膨らむ支出は、「アラブの春」で中東各地に暴動や反乱が始まり、その混乱に対する懸念が高まるにつれ増やされてきました。

GCC governments face rising public spending commitments, particularly for social welfare and water and energy subsidies—and these commitments have grown in response to concerns about unrest since the Arab uprisings began.

サウジが2011年に、エジプト革命から波及したバーレーンでのデモに対して軍隊を介入させたことは、戦略国際問題研究所のほかの論文でも注目されています。
シリアやリビアは「アラブの春」の暴動から内戦状態になったケースですが、湾岸諸国は今まで潤沢なオイル・マネーで国民の不満を抑え込んでいたわけです。

ペルシャ湾岸諸国で「アラブの春」の暴動・反乱がおこり、それがサウジに飛び火した場合の、最悪のシナリオはどうなるのでしょうか。

「イスラム国」がイラク南西部の国境を超え、サウジに勢力を拡大した場合、そしてアルカイダがサウジ国内で民衆の混乱に乗じて活動を活発にさせた場合は、最悪の内戦となり、サウジは世界経済の火薬庫になります。

イスラム国、空爆開始後に失った支配地域はわずか1% 米発表 (1/24-2015 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3037554


■ 関連リンク

サウジの核武装と米シェール潰し (2014-11/27 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39155494.html

ペルシャ湾の火薬庫 ―バーレーンをめぐるサウジとイランの衝突―(2011/03/08 拙稿)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/34602314.html

サウジ老齢王室の政策決定と原油下落―その軍事的側面― (2014-12/11 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39182019.html


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プーチンは経済成長を捨てて侵略する選択を―プーチンは何を考えて行動しているのか―

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(注)85 年まではアラビアンライト、86 年以降はドバイの原油価格
(出所)BP 統計 下記の小宮山涼一氏の文献から作成
最近の原油価格高騰の背景と今後の展望に関する調査(2005年10月)
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1154.pdf



ロシアのプーチン大統領は4日、モスクワで今後の施政方針を示す年次教書演説を行った。(中略)大統領は今後の経済成長に関しては構造改革を進めることで「3〜4年で世界平均(約3%)以上の成長率を達成する」と述べた。だが、年次教書演説で示した経済対策はいずれも小手先の内容にとどまり、手詰まり感も見えた。

ロシア大統領、欧米との対決姿勢強調 施政方針演説 ルーブル安対策も加速
(12/04-2014 日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM04H8J_U4A201C1FF2000/


上記報道のように、プーチン大統領は昨年12月4日、経済の悪化が深まるなかで経済の「構造改革」を行ない、ロシア経済を苦境から脱出させることを国民に向けて表明しました。

このロシアの経済構造改革については、プーチンの施政方針演説のまえ11月にCSISのアンドリュー・クチンス氏が、崩壊前のソビエト連邦の指導者が構造改革に失敗した状況に酷似していると言って、非常に悲観的な見方をしています。そしてそれが、次なるプーチンのアクションを呼ぶとも言っています。


【◆◆以下の記事は有料メルマガ12月11日号の一部で、それに加筆したものです】
   【2】 プーチンは経済成長を捨てて侵略する選択を

       ―プーチンは何を考えて行動しているのか―


戦略国際問題研究所(CSIS)が2015年の国際情勢について長編の予測集を出しています。その中でロシアが専門のアンドリュー・クチンス氏が、リセッション間近と言われる悪化しているロシア経済のなかで、プーチンがどのように考えて行動しているのかを、『プーチンのジレンマ』という記事で解説しています。

そこでは、経済の構造改革と経済成長を断念せざるをえなかったプーチンが、国外への侵略を活路にして権力の延命を図る姿が解説されています。

Putin's Dilemma (「プーチンのジレンマ」 11/13-2014 戦略国際問題研究所 PDFファイル)
http://csis.org/publication/putins-dilemma

この記事の一部を抄訳します。


(抄訳開始)

プーチンは大統領に就任して以来、二期にわたって(2000〜2008年)、年に約7%の経済の成長をなし遂げてきた。ロシアの石油と天然ガスの生産高を飛躍的に増やしたことが、高い経済成長を支えた。世界的な経済危機の後でさえ、2010年と2011年には4%以上にまで回復させた。

プーチンに対する一貫した政治的に高い評価の基盤は、ロシアの人々の、経済の見込みが絶えず良くなっていくという認識であった。

プーチンが2012年5月に大統領の職に戻った時、彼は難しい選択に直面した。その時、経済の停滞の兆候がすでに明らかになっていたからだ。彼は増えていた中産階級を、彼らの経済的不安に対処することによって吸収し、構造的な経済改革に着手するか、または、彼の「垂直なパワー」と呼ばれる政治的な基盤を弱体化させる危険を冒すかの、どちらかの選択に直面した。

プーチンのジレンマは、1980年代初期のソ連政治局を思い出させる。

石油による多くのドル収入にもかかわらず、ソ連経済は構造的に非常に非効率であったために成長率はゼロに近かった。
ソビエトの経済停滞が深い底にあった時、ブレジネフと彼の後継者たちは、構造経済改革は政治的に危険すぎると判断して、改革をせずにどうにか切り抜けようとした。

もし、原油価格が高いままであったなら、その動きはうまくいったかもしれない。そしてソ連は持ちこたえていただろう。
しかし言うまでもなく、原油価格は急落し(訳注:1981〜1986年にかけて)、ソ連は改革を試み、ソ連崩壊は起こった。(※ 冒頭グラフ参照)

プーチンは、クリミア併合とウクライナでの戦争の前でさえ、原油価格が歴史的に高かったにもかかわらず、(ソビエトの前任者たちのように)構造改革を避けてきて、ロシア経済は停滞を続けてきた。

それはプーチンが、政治的な人気と権力の基盤のための経済成長と繁栄を断念することを、すでに決心したように見えた。

このリスクの高い政治戦略は、彼の指導力を正当化する<新しい政治的な物語>を必要とする。経済成長と繁栄をもはや絶対必要なものではないとするならば(権力維持のために)、<新しい政治的な物語>を必要とする。

この新しい政治戦略(物語)は2012-2013年に形ができ始めた。それは「公式な愛国心」という19世紀のロシアの政策の中にある伝統的なロシアの価値観に重点を置くことを、(国民のあいだに)強化することとともに行なわれた。その「公式な愛国心」は独裁政治、正統性、ロシア人の愛国心の3つを中心に展開する。

ウクライナの危機は、この新しい政治的物語をさらに強化するための理想的な機会を提供した。

(抄訳終了)


上記のクチンス氏の記事から考えると、プーチンが米国のシェールオイルの生産拡大と中国などの需要減少から、2014年中からの原油価格の下落をある程度予想していれば、プーチン政権の第3期(2012年〜)で経済構造改革をすることは、崩壊したソビエトの二の舞となると考えたでしょう(実際には予期せぬサウジの生産量の維持で、原油はさらに大きく値下がりしました)。

だから経済構造改革による経済成長をあきらめて、ウクライナへ侵略を始め、国民の関心を国内から外部へ向けた。サウジアラビアなどがこのまま減産せずに、シェールオイルの生産縮小が進めばいずれ原油価格は上昇を始める。

そうやって権力の延命を図っていけば、やがてアジアと欧州のユーラシア大陸での広範囲な石油・ガス事業と、地球温暖化とともに重要視されつつある北極圏のエネルギー資源と北極海航路での地政学的な優位から、大国への復権が果たされる。

クチンス氏の分析を補って言えば、短期的な経済成長を断念したプーチンの中長期戦略は、大まかにいって以上のようなものであったのではないだろうか。しかし、プーチンの誤算はサウジなど湾岸産油国の生産量の維持でした。

プーチンがウクライナ国内の「ノヴォロシア」と呼ばれている地域の、失地回復のビジョン(構想)を掲げていることは、クチンス氏のこの記事の中でも取り上げられていますが、同氏の別の記事から「ノヴォロシア」の失地回復(復興)について、以下の記事に地図入りでまとめてあるので参考になればと思います。

プーチンは停戦を遵守するかー「ノヴォロシア」の復興ー(10/09-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39109236.html

私がこれまでロシアのプーチンを注意して見てきているのは、米欧の経済制裁によってロシア経済が悪化を深めていけば、残忍で危険なこの権力指導者は、きっと何かしでかすと思っているからです。

2002年に起きたチェチェンの反政府武装勢力によるモスクワでの劇場人質事件では、人質のロシア国民130人が死亡しましたが、その際の人質を巻き込む作戦は、人質の身体に対して乱暴かつ残虐で冷血なやり法で、多数の市民が犠牲になり死亡しました。(※ 注-1)

ユダヤ系ロシア人でジャーナリストのマーシャ・ゲッセン氏は『顔の無い男』という著書の中で、「プーチンほど残虐な指導者はいない」と非難しているそうです。(※ 注-1)


■ 注
※ 注-1:『アメリカはいつまで日本を守るか』, 第7章 アメリカはいまもロシアを敵視している, (日高義樹著 2013.11.30刊 徳間書店)


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サウジ老齢王室の政策決定と原油下落―その軍事的側面―

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          サウジのヌアイミ石油鉱物資源相


【◆◆以下の記事は有料メルマガ12月11日号の一部で、それに加筆したものです】


    【1】 サウジ老齢王室の政策決定と原油下落 

          ―その軍事的側面―


11月に続いて12月も生活に密着している原油価格の下落が関心をよんでいます。この原油価格下落の主役はいうまでもなくサウジアラビアです。このサウジが米国のシェールオイル潰しを企てているのではないかという見方は、有料メルマガ11月27日号の『サウジの核武装と米シェール潰し』で取り上げました。

その記事で取り上げたサウジの動向に詳しいサイモン・ヘンダーソン氏が、シェールオイル潰しに加えて少し違った角度から状況を見ています。それは同氏の10月17日以降の記事からです。
ヘンダーソン氏は、サウジの原油の政策決定の現状について解説しています。

Falling Oil Prices and Saudi Decisionmaking (10/17-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/falling-oil-prices-and-saudi-decisionmaking

ヘンダーソン氏は、サウジが米国のシェールオイル潰しを企てているのではないかというマスコミの見方も取り上げています。しかし、そのあとで、1973年の中東戦争の際に米国へ石油の輸出禁止を行ったような、米国への対決姿勢をサウジが実行した例は、過去において稀であると言い、現在の見方としては、サウジの行動は原油価格の支配・制御(controlling)というよりはむしろ状況反応的な(reactive)行動であると言います。

そしてそれを確信する理由の一つは、サウド王室の<老齢な指導力の状態>であると言います。

Yet that has rarely been Riyadh's practice, and the current perception is that Saudi behavior is reactive rather than controlling.
One reason for this belief is the kingdom's geriatric leadership situation.

この<老齢な指導力の状態>についての記述を抄訳します。

=========================================
アブドラ国王は今年91歳になるが、長年のヘビー・スモーキングに苦しんでおり、酸素ボンベが離せず、介助者なしでは歩けない。
また、アブドラ国王の後継者であり、異母弟であるサルマン皇太子は、78歳で、持病を抱えている。

理論上、サウジの石油政策は、国王、年長の王子たち、そして関係閣僚たちで構成された最高石油会議によって決定される。しかし最近は、この閣議でのどのような公の声明もなされていない。

その代わりに、これらの決定は長く石油大臣を務めているアリ・アル・ヌアイミ(ヌアイミ石油鉱物資源相)に任されているように見える。

=========================================

この記事のなかでヘンダーソン氏は、「高い輸送費にもかかわらず(※注-1)、サウジは地政学的な重要性のために米国への石油のトップ輸出国のままでありたいと望んでいる」と言っています。

(※注-1:米国への輸出は欧州などと比べて遠いので、サウジは引渡し地までの運送料、保険料を含む価格(CIF 価格)を負担して調整しているようです。下記参照)

石油市場の国際的な取引慣行に関わる基礎的調査 (財団法人 中東経済研究所)
https://jime.ieej.or.jp/htm/extra/2004/08/11/itaku02.pdf


サウジアラビアは4日、米国とアジア向けの1月積みの原油価格を大幅に引き下げると発表した。アナリストの間では価格を引き下げることで市場シェア拡大に向けた動きを加速させているとの見方も出ている。

サウジが米・アジア向け原油値下げ、シェア拡大へ動き加速か (12/04-2014 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_mideast/idJPKCN0JI25620141204



サウジは市場シェア維持、またはシェア拡大を最優先して価格下落を容認しているとの観測が一般的ですが、12月4日のロイター記事が伝えるように、<米国向け>原油価格を大幅に引き下げると発表しました(ロイター記事で、サウジがアジア向けの価格を大幅に引き下げるとあるのは、アジア地域が一番の経済成長地域でシェアを確保しておく必要があるからです)。

サウジが価格を大幅に引き下げてでも米国での石油シェアを確保したいというヘンダーソン氏の指摘は、「イスラム国」(ISIS)が引き起こしている現状の中東情勢で、サウジが米国にテロ戦争で安全保障を軍事的に求めている証拠かもしれません。

いまは気前のいい財政で、国民の機嫌をとっているサウジですが、米軍に対して形勢有利な「イスラム国」によって、サウジアラビアがイラクやシリアのように内戦状態に陥ることは否定できないからです。

いまのサウジの石油政策は、米シェール潰しであると同時に、サウジにとって米国が石油の第一のお客であってもらわねばならない軍事的な目的もあると考えます。
このサウジの石油政策の軍事的側面は、シェールオイルの増産がペルシャ湾岸の軍事情勢へもたらす影響と密接に関係してきます。


■ 関連リンク

サウジの核武装と米シェール潰し (11/27-2014 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39155494.html


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張 良

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